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最高裁判所第二小法廷 平成7年(行ツ)4号 判決

千葉県習志野市谷津五丁目三七番一三号

上告人

阿部徳雄

右訴訟代理人弁護士

鈴木守

千葉県花見川区武石町一丁目五二〇番地

被上告人

千葉西税務署長 坂本武志

右当事者間の東京高等裁判所平成六年(行コ)第八六号、所得税に係る更正の請求に対する更正をすべき理由がない旨の通知処分取消請求事件について、同裁判所が平成六年一〇月一七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立てがあった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人鈴木守の上告理由について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は採用することができない。

よって、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 河合伸一 裁判官 中島敏次郎 裁判官 大西勝也 裁判官 根岸重治)

(平成七年(行ツ)第四号 上告人 阿部徳雄)

上告代理人鈴木守の上告理由

第一、真実の真相

一 原判決表示A物件は、以下に述べるとおり、上告人と上告人の父阿部勇四郎の共有である。

1 上告人は、A物件を購入にあたって、A物件を居住用兼事業用として使用し、かつ、将来、A物件で父親と同居し、父親の面倒を見るつもりでいたため、妻と父親との関係を考慮して、父親にもA物件の購入の資金を一部負担してもらい、A物件に対する父親の権利を設定しておいた方がいいと考え、また、その方が資金的にも好都合であったことから、父親に一五五〇万円の資金の負担を求めた。これに対し、父親もこれを了承して右金員を支出したのである。そこで、上告人は、A物件を上告人と父親の共有として購入し、その旨の登記手続きを経由した。父親との共有とすることは、父親が右のとおり一五五〇万円を購入資金の一部として負担したことから、弟や妹らの意向にも沿うことであった。

右の事情にてらしてA物件は上告人と父親との共有であるというべきである。

2 A物件は、共有物件として、上告人と父親の二人が売主である。

上告人は倍は契約にあたって父親に連絡し、説明し、父親の了解を受けて、父親から印鑑証明や委任状の交付を受けているのである。

もちろん、売買契約書でも二人が売主となっている。

上告人は取得した売買代金の内、合計一八五〇万円を父親に送金して渡している。一五五〇万円でなく、これに三〇〇万円を加えた一八五〇万円である。このことは、乙第一号証の九頁E項でも認定しているとおりである。

上告人は父親の出資金を返還しただけでなく、一定の利益を加えて支払っているのである。これは上告人が父親から一五五〇万円を借りて、この借入金を返済したというものではない。

まさに、このことは父親が共有者であることを如実に物語っているのである。

ところが一審、二審判決とも、一五五〇万円を返済したと事実誤認し、一八五〇万円の支払いの事実に気付かず、何らの評価もしていない。

取得代金の内その他の部分は、上告人と父親の利益分とともに、今後の新たな物件の購入資金あるいは上告人と父親の税金用として上告人において保管しているものである。

上告人と父親との間の譲渡利益の分配については、新たな物件の購入や税金処理が終わった段階で二人で協議して決めることにしており、父親への分配が右一八五〇万円ですべて終りというものでもないのである。

右の事情にてらしても、A物件は上告人と父親の共有というべきである。

3 上告人は、船橋税務署において、A物件が実質上、上告人の単独所有であるというような説明をしていない。

上告人は、確定申告手続きにあたって、父親が目が悪く健康がすぐれないため父親の分も自分が父親に代って手続を行うつもりでいたが、事業所得や譲渡所得の計算の仕方がわからなかったこと、上告人と父親とで別々に申告する場合と、便宜上上告人の単独で申告する場合とで税額に違いがあるのかないのかわからなかったこと、もしもどちらの場合でも税額に違いがないなら便宜上上告人の単独申告で済ませればいいと思っていたことから、船橋税務署に相談に行ったことがある。

4 そこで、上告人は船橋税務署の資産税課の担当職員であった松元弘文に、右に述べた相談の趣旨を説明したのである。

しかし、どちらでも税額が変わらないなら上告人の単独所有ということでいいという趣旨が松元に誤解されたのか、松元はA物件が上告人の単独所有であると思い込み、これを前提として各所得額を計算し上告人に示した。だが、上告人が当初より関心を持っていた共有の場合における所得額や税額の計算や説明は全くされなかった。

しかし、上告人はもともと税金の計算についての知識がなかったため、よく事情が飲み込めないまま、松元の計算と説明で、共有の場合でも、便宜上単独所有とした場合でも所得額や税額はトータルとして変わらないものと受けとめ、それなら、松元のいうように自分の単独所有として申告することでいいと誤解し、松元の計算による所得額を受け入れてしまったのである。

5 その後、上告人は所得税部門において確定申告の相談をしたが、本件物件の税額が思ったよりも多額であることに疑問をいだき、そこで再度、松元に相談をしたところ、税額の計算は間違いないとの説明であった。(この段階での計算は、A物件が便宜上上告人の単独所有であるとする前記の経過に基づく所得計算を前提にした計算である。)

しかし、上告人はまだ納得できないところがあるものの、松元の説明で、そういうものかと思い、一応確定申告書の記載を終了させた。

しかし、それで直ちに申告書を提出するという気持ちにはなっておらず、今一度納得するまでよく考えてから提出しようと思っていた。もちろん松元に提出の代行を依頼したこともなかった。

ところが松元は上告人に断りもなく、上告人が事情のわからないうちに、確定申告書の提出手続を行ってしまい、戻ってきて上告人にはその控えを渡したのであった。

6 これに対し、上告人は、松元が勝手に確定申告書を提出してしまったことを知って、徴税課の職員を伴って窓口で確定申告書の返還を申し出た。

しかし、窓口では、すぐにはわからないということで返還に応じてもらえず、その代わり、後に修正(更正)なりの手続をすれば、払い過ぎた分は戻ってくるとの説明を受けた。

そこで上告人は、それなら、後によく考え、人にも相談し、納得できる税額による修正(更正)申告をすれば、払い過ぎの場合には、その分が返還されるものと考え、それ以上確定申告書の返還を求めず帰宅したのであった。

7 それで、上告人は、その後、税理士などに相談した結果、A物件については共有分に従って、上告人と父親の二人でそれぞれ確定申告すべきであり、その方が便宜的に上告人の単独所有とする場合よりも税額は低くなることが判明し、その結果、所定期間内に本件「更正の請求」を行ったのである。

以上3ないし当項に述べた事情に照らし上告人がA物件を自己の単独所有であると説明したことはないし、また、船橋税務署での上告人の説明や言動をもって、上告人の単独所有認定の根拠とすることは誤りである。

8 A物件が共有であり、共有として売却したことについては上告人の父親もよく承知していたことである。

ところで父親は、税務署員の質問に対し、A物件が実質上上告人の単独所有で、自分には関係がないかのような趣旨の回答、説明をしているが、これは父親の真意ではなく真実と相異したものである。

それは、父親が上告人より事前に税金申告は全て上告人が処理するので上告人に任せるよう連絡を受けていたので、父親は、A物件が共有であるかどうかということとは別に、税金については上告人に全てを任せ、自分には関係がないとした方が都合がよいとの考えから税務署員に対し右のような説明、態度に出たにすぎないのである。

よって、父親の右言動からA物件が上告人の単独所有であると認定することは誤りである。

二 前述したとおり、確定申告書は、松元が上告人の意思に反して提出したものであって、上告人の意思に基づく有効な提出とはいえないものである。

三 以上述べたとおり、原判決が確定申告書の提出が上告人の意思に基づくものであり、かつA物件は上告人と父親との共有ではなく、上告人の単独所有であると認定したことは重大な事実の誤認であるから原判決は取り消されるべきである。

第二、上告理由

一 原判決がA物件を共有ではなく、誤って上告人の単独所有と認定したことは、関係各証拠の正しい評価を誤った結果であり、法令の解釈適用を誤った違法を犯したものである。

二 その端的な表れが、前述のとおり、上告人が父親に支払った金額を、一八五〇万円でなく、誤って一五五〇万円と認定したことである。

原判決は、一五五〇万円は上告人が借りた一五五〇万円を返済したものであると認定しているが、上告人が支払ったのは、一八五〇万円である。明らかに原判決は右事実を見誤っているのである。

支払い額が一八五〇万円であるか一五五〇万円であるかは、A物件が共有であるか単独であるかを判断するにおいて極めて重大なポイントである。支払い額が一八五〇万円であれば、単純に借金の返済とはいえないからである。むしろ、共有者に対する売却利益の一部還元ということが十分言えることになるというべきである。

よって、この店において原判決は証拠の採用、評価において、法令の解釈適用を誤った違法、もしくは、右事実の存否についての審理を尽くすべき義務を怠った審理不尽の違法を犯したものである。

三 原審は、第一回期日において、上告人がなした証人阿部勇四郎と証人矢内五郎の証人申請を却下し、何の調べもせずに直ちに終結し上告人の控訴を棄却してしまった。

ところが、上告人の父親である阿部勇四郎は、本件争点の解明にとって重要な証人である。ところが同人に関する証拠は、すべて被上告人側の関係者が作成したものである。しかも、同人の言動については、第一、一、8に述べた背景事情がある。

従って、公平の見地からみて、同人を証人として調べる必要性は極めて大であるというべきである。

よって、同人の証人申請を却下した原審は公平を欠いた偏頗な訴訟指揮によって本来審理すべき重要証人の取り調べを行わなかった重大な審理不尽の違法を犯したものというべきである。

また、証人矢内五郎は、上告人が船橋税務署徴税課で確定申告の返還を求めた際の職員であり、単独所有を前提にした申告が上告人の真意ではなかったことを証明するについて重要な証人である。

しかるに原審が右証人申請を却下したことは本件争点の解明にとって重要な証拠の取り調べを放棄したものであり、審理不尽の違法を犯したものというべきである。

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